青ブリの見る夢
「僕の財布がなぁ〜い・・・」 酔っ払ってろれつの回らない萩原は、10秒毎にこの台詞を繰り返した。 今日は居酒屋で年に一度の飲み放題。 宴は盛り上がり、店を出た一同は皆ごきげんだった。
寝静まった夜の中を、少し近所迷惑な声で談笑しながら足は学校へと向かった。 夏の少し湿った夜風がほてった頬に心地良い。 校門を入ったところにある池の前で有村がふと立ち止まった。 意地の悪い笑みを満面に浮かべて、奴はこう言った。 「萩原、おまえの財布は池の中だ」 酔っ払った萩原は半信半疑で池の中を覗き込む。 その可愛そうな尻を、間髪いれず有村は蹴飛ばした。
思ったよりも水しぶきは少なかった。 萩原は相変わらず財布が無いと騒いでいる。 つんのめるように池の中でコケる萩原に爆笑する一同。 しかし、笑っている下級生どもに向かって俺の目は冷たく光った。 「おまえら〜、笑っている場合じゃねーだろ」 俺の右手の人差し指は、まっすぐに池を指差していた。
池の中は既に大騒ぎになっていた。 命令したとはいえ、なんだか少しうらやましくすらある。 そこへチョコザイな栗原がこういいやがった。 「先輩さんたちの気合も見せてくださいよ」 隣の有村と目が合った。 「行きますか」 奴の目は嬉しそうに笑っていた。
生暖かい池の中で、どれだけの時間騒いでいたんだろう。 酔いはすっかり覚めていた。 皆ずぶぬれの体を引きずって、月明かりの中を歩く。 なんだか妙に誇らしい気分で、各々の家へと別れた。 俺と栗原は、長田のアパートへと向かった。
長田に着替えを貸してもらい、雑魚寝。 「実は長田さんの青ブリ、一回はいてみたかったんですよ。」 憧れの青い下着をはいて、栗原は嬉しそうに言った。
あくる日の部活の集合前、池で騒いだ連中は顔を見合わせて笑う。 「財布は見つかりませんでした」 萩原は残念そうに呟いた。 |