気合その3 「無駄無駄ァURRRRYYY」
おっす。塾長だ。早くもこの講義も三回目となった。なかなか文を書くのも骨が折れるが、頑張って続けてみたいと思っている。 ある日のことだ。俺は12年の歴史に幕を閉じた「ジョジョの奇妙な冒険」の単行本を購入すべく近所の本屋へと足を運んだ。店員は気にくわねぇが俺ん家の近くの本屋はここ一軒しかねぇ。が、行ってみるとなにやら店先に人が立っている。 それはなんと英会話教室の勧誘でありやがった。なんでも、テレビ電話を通して向こうのアメリケーン(まぁ英会話の教師なのだろう)と英会話が体験出来るという。俺はすかさず目をそらして立ち去ろうとした。 「あれ、塾長じゃないッスか〜。日ごろの成果を試してってくださいヨーン。」 店員のタニグチだ。英会話教室のおねいちゃんに色目を使っていたかと思うと、目ざとく俺を見つけ声までかけてきやがった。すかさず英会話教室のおねいちゃんは俺の腕を掴み、テレビ電話の前へと俺は否応無しに促された。 怒りの眼光でタニグチを焼き払ってしまいたかったが、目の前のテレビ画面ではアメリケーンなおねいちゃんが既にスタンバッている。むぅ、ここは腹を据えるしかないと覚悟し、俺は自己紹介文を頭の中で英訳し始めた。が、その時だ。 「ハイゼア」 む?むむむ?ななな、なんだその「はいぜあ」っつーのは?「Hi」っていうのは俺でも知っているが、その後に「ぜあ」がついたのなんて聞いたことも見たことも無いぞ!・・・ ギャラリーが見守るなか俺は一声を発することも出来ず、背中には冷たい汗が流れ、画面の向こうではアメリケーンがすっかり困惑した顔で、カメラ越しに俺の額に浮かんだ汗を見つめていた。 結局何もできないまま、俺は尻の穴まで真っ赤にして席を立った。こんな屈辱を忘れるにはジョジョだ。ジョジョしかねぇ。俺は本屋の中に入り、ジョジョの1-20巻を抱えタニグチの前に叩きつけた。 野郎、ジョジョのバーコードをレジに入力しながらニヤニヤとこういいやがった。 「塾長ぉ〜、だめですよ”Hi”くらいは返事しないとぉ〜」 バカめ、それくらいは俺でも言えるわ。向こうのアメリケーンは「Hi」ではなくて「はいぜあ」と言ったのだ。俺はこれから家に帰ってジョジョを読んで気を晴らし、それから辞書で調べるつもりだと鼻息も荒く胸を張った。 「じゅ、塾長ぉ、あれは”Hi there”っていったんスよぉ〜?”Hi”と意味は変わんないっすよ〜。あえて言うなら”そちらの方こんにちわー”っつーよーなもんっスよぉ〜。ぷぷ。」 俺はジョジョの購入を即座に中断して店を後にした。歯が折れんばかりに食いしばり、両拳を岩のように握りしめてな。俺には「ぷぷ」なんていう言葉を発する店員の給料に貢献する趣味はねぇ。
まぁ前置きは長くなっちまったが、アメリケーンはこんな風にそんなに意味の無い、一見無駄な言葉をつけてしゃべったりするのだ。ニュアンスが少し違うときもあるが、大抵は韻の問題らしい。 そして俺の経験上、日本人はこういう余分なもんがくっついた言葉にめっぽう弱ぇ。自分の知ってるパターンから外れたとたんに自分の知識に自信がなくなってしゃべれなくなっちまう。こんなもんは気にしちまっちゃぁダメだ。が、慣れて置く為には良く使われる「無駄」に触れておくのがポイントなのだ。
例えば何かを否定するとき、一番一般的なのは「No」だ。が、奴らはよく「No way」という表現もつかう。俺なんぞは「なに?道がないのか?それともノルウェーがどうかしたのか??」などと思ったが、これはNoの意味合いを強調して且つ言葉を感情的に言いやすくなっているらしい。 まぁ確かに日本語でも 「いえ」 と言っちまうよりは 「いーえー」(”い”と”え”を強調) と言ったほうが感情的に否定度合いが強いと言えよう。それと同じで 「のぅ」 と言うより 「のぅうぇい」(”の”と”うぇ”を強調) といったほうがなんだか感情込めて否定が出来ようというものだ。逆に簡単に否定したいときは単なる「No」で済ませることによりメリハリがつくとも言えよう。
野郎同士で軽い挨拶をするときには「Hey」なんていったりするものだが、これも「Hey man」などといったりする。これも「よう男の人」などといっているわけでなく、韻の一種だ。 この「man」は野郎同士の軽口などでしばしば登場する、「意味は無いけど感情的に表現するにはナイスな韻」だ。敢えて意味合いをとるなら「おいおまえ」とか「〜だぜ?」といったカンジだろう。 例えば何かの買い物の時に、超お買い得品で通常$50のものが$20するとしよう。野郎同士はそれをみつけると 「Man take a look, it's just 20 bucks man!!」(おいみてみろよ、たったの20ドルだぜ!) となるわけだ。ちなみに「Buck」はスラングでドルの意味だ。特に末尾に「men」をつける場合には「〜だぜぇぇぇい?」といったカンジに「メェェン」と伸ばすのが良い。まぁこの辺は個人の表現によることになろう。
また日本語で悔しいときにいう「クソッ」や「ちくしょう」は英語で言うと「Shit」(ちなみに直訳でもクソだ)になるが、これもしばしば「holy shit」と意味の無い「ホーリー」が手前について発せられる。これも「神聖なクソ」をあらわすものでなく、「holy」にはまったく意味がない。「のぅうぇい」と同様に韻を伸ばすことによって感情的に表現する手法だと俺は思っている。とくに 「ほぅぅぅりぃぃぃ しっっと」 と少し間を持たせながら言うとより感情的だ。 ちなみに、この講義のタイトルにもなっている「Bullshit」はこれとはちょと違い、「いいかげんなことやもの」とか「うそこけー」とかそういう意味なので注意。
この他にも意味を大して持たない「無駄な韻」は色々とあるが、判った振りしてふんふんと聞いていればそのうちたいして意味を持たないことがわかると思う。いずれ自分でも使えるようになれば、ちょっとしたニュアンスの違いもわかるようになることだろう。 そして心に刻むべきは、そういった「無駄」が多数存在するという事実だ。それさえ覚えておけば、アメリケーンを目の前にして99.9999%何を言っているのかわからなくっても「むむ、このアメリケーンは99.9999%無駄を言っているやがるな、ん っふふ〜ん」と心にゆとりを持って相手の言葉に耳を傾けることが出来ようというものだ。 またこう言った表現をすることによって、いわゆる「くだけたカンジ」を表わすことが出来るようになる。特に映画などでは良く使われているので、知っている映画の字幕を見ないようにして聞いてみると、いくつかよく出るフレーズがあったりしてなんだか判ったような気分になれるかもしれない。 ちなみに補足だが、「way」はもともと強調の意味を持つ言葉(例:”way better”=”ぜんぜん良い”)なので、まったく意味を持たないわけではないことを付記して置こう。が、まぁ通常は韻の為だと考えておいて困ることはまずない。
さぁ上司に文句を言われた日には、一人になるのを待って「holy shit!」と感情込めて呟いてみよう!友達から自分の根も葉もない噂話の確認の電話がきたら「no way!」と叫んで見るのだ。 ではまた次回、諸君の健闘を祈る。 |